静かに来たれ懐かしき

(第三高等学校 行春哀歌)

矢野峰人作詞


序詞
われらがはなやかに美わしかりし青春の響宴(きょうえん)は、
かくもしずかに、またかくもあわただしげに尽きなんとす。
友よ、さらに新しき盃をもとめながら、
われらとともにうすれゆく日のかげにこの哀歌を声ひくく誦(ず)せん

静かに来たれ懐かしき
友よ憂いの手を取らん
曇りて光る汝(な)が瞳(まみ)
消えゆく若き日は嘆く

われらが影をうかべたる
黄金(こがね)の盃(つき)の美酒(うまざけ)
見よ音もなくしたたりて
におえるしずくつきんとす

げにもえ分かぬ春愁の
もつれてとけぬなやみかな
君が無言のほほえみも
見はてぬ夢のなごりなれ

かくも静かに去りゆくか
ふたつなき日のこのいのち
うえたる暇もひそびそと
薄るるかげのさみしさや

ああ青春は今かゆく
暮るるにはやき若き日の
うたげの庭の花むしろ
足音もなき「時」の舞

友よわれらが美(よ)き夢の
去りゆく影を見やりつつ
離別(わかれ)の酒を酌(く)みかわし
わかれのうたにほほえまん